ステレオオーディオミキサーを自作する。

ステレオオーディオミキサーを自作する。

2023年7月20日

のもあです。以前4回にわたって連載していたミキサー自作記事の一気読み総集編を掲載します。

ステレオミキサーを自作したい(1)前提編

こんにちは、Masaya a.k.a.のもあです。

今回はミキサーを自作したい、という話なのですが前提としてなぜミキサーが必要かを少し説明させてください。

80-90’sのギタリストによくあるラック機材、あれの中味をざっくり図に示すと次のような感じになります。

よくあるステレオシステム

コンパクトなシステムではディレイやリバーブ等は直列に繋ぐことが多いです。たとえばこんな感じ。

普通のエフェクターボード

この接続はシンプルで、空間系エフェクターをつなぐだけでできるので手軽で、リバーブ内蔵のアンプを使用するさいにもこのような接続になるため一般的になっています。
このような、直列接続では、原音にもディレイ音にもリバーブがかかり滲んだ感じの音になります。よく言えば馴染みが良い、悪く言えばそれぞれのエフェクトの音がはっきりしない感じの音になります。

マットスコフィールドのデモ演奏、ショートディレイ単体よりリバーブを足すことで馴染みの良い音になっています。

他方で先に示したラックシステムの最初の段では、信号を分岐させてディレイやリバーブは並列に接続され、それぞれが干渉しないようになっています。また、エフェクターはエフェクト音だけを出力し、原音はそのままミキサーに入れることで原音の音質劣化を防いでいます。

さらにそのあとでディレイを追加することもあります。たとえばエディヴァンヘイレンのシステムではRolandのSDE-3000のようなディレイを最後に加えてあり、Roland SDE-3000はモノラル仕様のため、最初の図のようにステレオ個別に二台用意されています。EVHのシステムでは後段にディレイのみを接続していましたがここにミキサーを一台加えてさらに複雑なシステムにすることもあります。

ともかくこのように、80-90’sのラックシステムの音を再現するためには音を分岐させるスプリッターと音を混ぜるミキサーが必要になってくるわけです。

次回は既製品を少し検討してみたいと思います。少し短くなってしまいましたがまた今度~。


ステレオミキサーを自作したい(2)既製品検討編

はじめに

自作ミキサー企画の続きです。

とりあえず現在の空間系用のボードはこんな感じです。

Source AudioのVentris Dual Reverbにモノラルで入力、そこからステレオに分岐しBOSS DD-500に入力、ステレオ接続と、リバーブ→ディレイの接続順になっているところ以外は普通の接続です。
ライブではモノラル出力していますが、片チャンネルのみ出力しても問題ないように設定しています。

要はミキサーが欲しい理由はこの2つのペダルをパラレル接続したい、ということになります。イメージで表すとこんな感じ。
ちなみに、上の両機種とも原音の劣化は無いと言って差し支えないほど高音質なので、原音ミックスはミキサー側で行ってもよいし、ディレイかリバーブのいずれかでミックスすることもできます。

上が現在 下がパラレル接続でやりたいこと。

必要な機材を検討する。

このような接続(+できればもう一種類ぐらいのエフェクトを追加する余裕が欲しい)をするためにどのような機材が必要か考えてみます。

汎用的なミキサー

まず一つ考えられるのは、アナログミキサー、とりわけ、いわゆる「ミキサー」「卓」と言われて多くの人が想像するアレを導入することです。

引用:https://mackie-jp.com/mixers/mix/downloads/

このタイプのミキサーは、各社最小の機種から数えて二番目の大きさの機種ぐらいからAUX Sendを備えており、次のような接続で分岐とミックスを実現できます。

これはいわゆるラックタイプのいわゆる「ラインミキサー」と呼ばれるものでも同様のことができます。
Youtuber、ギタリストのLeon Todd氏が動画で公開しているのもこのような方式です。

この方法は正攻法だと思うのですが、いかんせんデカい卓なりラックミキサーが必要になります。特にラックミキサーを持っておけば、RJMのEffect Gizmoのような機器との組み合わせでかなり拡張性は広がるのですが、さすがにオーバースペックかつデカすぎ感が否めません。

Musicom LAB Parallelizer

これを書きながら考え直しているといるのですが、最適な選択肢だったかもしれません。

引用:https://allaccess.co.jp/musicomlab/parallelizer/

Musicom LABのParallelizer特に難しいことをせずに信号の分岐とミックスができ、MIDIでエフェクト音と原音のオンオフを切り替えることができるギター専用のミキサーで、表のパネルからそれぞれの音量を調整することができます。

引用:https://allaccess.co.jp/musicomlab/parallelizer/

売価5万円ぐらいなので決して安くはないですが、性能を考えれば高すぎる機材というわけでもないと思います。予算が許せばこれを選んでおきたいところです。しかしちょっと手が出なかったですね……。

 ART SPLITMix4

引用:https://artproaudio.com/product/splitmix4-four-channel-passive-splitter-mixer-2/

低価格のもので検討するなら、ARTのSPLITMix4が候補に挙がります。

Shinobuさんのブログで詳しく紹介されていますが、4チャンネルの分岐あるいは4チャンネルのミックスだけでなく、2チャンネルの分岐と2チャンネルのミックスといった使い方も可能なもので、だいたい9000円ぐらい。

ShinobuさんによるART SPLITMix4の紹介記事

ただし、ネックになるのがこちらはパッシブの製品なので音量が下がったり、接続先の危機によって動作が不安定になるという懸念があることです。ローインピーダンス信号を扱うので多分問題なく使えるような気もするし、中古で探せば4000円ぐらいから手に入るので買って試すでもいいのですが、あまり安物買いの銭失いをしたいくない、しかも構造的に予測できるところで失敗するのも嫌なので候補から外しました。

まとめ

今回は既製品を検討してみましたが、なかなかコンパクトに手軽に音質の不安なくパラレルミックスを実現できる機材は無さそうでした。次回は制作編に入れるかな?


ステレオミキサーを自作したい(3)制作編

はじめに

自作ミキサー企画の第3回です。

前回既製品を色々検討しましたが、結局やりたいことは

1モノラルの信号を(2系統で足りますが余裕を持って)3系統に分岐させてエフェクターに送り、(ここも余裕を持って)3ステレオをミックスして1ステレオにするということです。これを一つの筐体に収めようとするとかなり大きくなってしまうのでスプリッター部とミキサー部を別々に制作していくことにします。

スプリッター部

自分のシステムの場合プリアンプから出た信号、あるいはキャビネットシミュレーターから出たラインの信号を分岐させるため多分パッシブでもなんとかなると思うのですが一応アクティブで作ることにしました。

といっても今回使用するのはシンプルなもので、バッファの出力ジャックを並列に並べただけのものです。

バッファは完全自作ではなく、タッキーパーツのキットを使用してみました。というのも、1からポイントtoポイントで組むのとそこそこの労力になるのと他人がデザインしたものでちょっと勉強してみたかったからです。

タッキーパーツではかなりの種類のバッファがありますがなんとなくSuper IC Bufferを選択、省スペース重視ならもっとコンパクトなものを使ったほうが良さそうです。

タッキーパーツのバッファキットのページ

タッキーパーツのsuper IC bufferの基板

「わからなかったところ」

バッファの出力のカップリングコンデンサを並列にするのかその後で並列にするのか、多分後者のほうが良さそうなのですが実際のところどうなのかよくわからなかった。

図にすると前者が左、後者が左のような感じになるのでしょうか。

とりあえず部品を買い足すのも面倒だったので前者で制作、問題なく動作したのでこれで良しとします。

以前作ったエフェクターの抜け殻を利用してケースに押し込みました、余った穴はアルミのテープを貼って埋めます。配線は気持ち悪くなってますが、イキった空中配線に憧れたり、ミスをその場しのぎで修正したりした結果です。気にしないでください。

ミキサー部

ミキサー部に関しても設計というよりネットで拾ってきたという表現が近いです。

ミキサーはひとまず入力部にボリュームをつけて必要に応じて音量を下げたりミュートにしたりできるだけのものにします。

ミキサー部はこちらのページ

電源部はとりそぼろさんのブログを参考にしました。

一応動作原理は勉強して理解したつもりなんですな定数をどうすればいいのかはわからず、手に入る近い数値でほぼ丸々使わせてもらった状態です。

こんな感じの回路です。ミキサー回路+一応の電源周りのノイズ対策の強化という形になります。

片チャンネルぶんの回路図
片チャンネルのみ作って動作確認している様子。
組みあがった基板
配線した様子

省スペース化のためインプットはTRSステレオで入れるようにつくってみました。高さを抑え、他のペダルを上に乗せることができるようにポットは手前側に配置。

手前側

ジャンクションボックス的に使いたいためアウトプットは反対側に置くことにしました。 

奥側

まとめ(挫折)

が作ってみると片チャンネルが動かない……。音声ライン上の色々な場所からコンデンサを介してイヤホンに接続して色々確認してみたところ、おかしなところは発見できたもののその周囲を配線し直したり、オペアンプを入れ替えたりしても直らず……。

現在ライブではモノラルでしか使っていないため、ひとまず諦めました。

ボードに組み込んだ様子ミキサーの右側の上段がスプリッター

次回は再製作編になります。レイアウト等も変更するつもりです。よろしくお願いします。


ステレオミキサーを自作したい(4)再-制作編

なぜか今日ブログ更新担当だと勘違いして頑張って書いてしまっていました。別に来週に回してもいいのですがせっかくなので今日も投稿します。

前回製作したステレオミキサーはなぜか片チャンネルが動きませんでした。というわけで再製作してみました。

応急処置できしょいシャーシアースをやってしまいましたが気にしないでください。

2回目の製作ということもあり、割とスムーズに作れました。
途中パーツの発注数ミスで抵抗が足りないというハプニングもありましたが、旧機から外してなんとか完成させました。
旧機からパーツを外す際に気が付いたんですが、一箇所抵抗値を間違えていたっぽいですね。早く気がついていればそこの修正だけでよかったかも……。

この黄色いクロスワイヤー錦糸卵みたいで美味そうですね。

これでちゃんと動きましたので、エフェクターボードに組み込みました。

ミキサーへの入力は、ステレオフォンジャック仕様とし、エフェクターからはモノ×2↔︎ステレオの変換ケーブルを製作しそれで繋いでいます。変換ケーブルとはいえそれなりの太さのケーブルを使いたかったのでステレオプラグは巨大なものを使うことになってしまいました。

最後にちょっとしたサウンドサンプルを。

twitter動画、しっかり読み込みしないとモノラルで再生されるのがもどかしいですね。ちなみにCircler Delayではなくて正しくは「Circular Delay」。

ステレオでパンが振られているディレイと、左右でピッチが異なるピッチシフトとルームリバーブを並列で鳴らしています。

全体的なシステムの説明とちゃんとしたサウンドサンプルはそのうち載せたいと思います。

ではまた〜。